業務上の災害で障害を受けた社員が職業訓練を受ける場合、給料は全額支払わなければならないでしょうか?

 業務遂行中に事故に遭い半身麻痺状態に陥った社員が、障害固定後リハビリセンターに入所し、職場復帰に備えてCAD講習を受講しています。

 会社は、職場復帰のための教育訓練と考え、通常勤務の60%相当の賃金を支払う予定でいましたが、本人から、「職業訓練も仕事の一環だから、賃金全額を支払え」と要求してきました。

 このような場合、会社は要求通り支払う必要があるのでしょうか。また、賞与の支払いについても必要でしょうか。

上記「業務上の災害で障害を受けた社員が職業訓練を受ける場合、給料は全額支払わなければならないでしょうか?」に対する回答

 業務上の疾病や障害で休業する場合には、原則として使用者に補償責任がありますが、労災保険に加入している場合には、政府から補償が行われますので、当該職業訓練が業務命令で行われるのでない限り、会社は賃金を支払う義務はありません。

 労働基準法(以下「労基法」という)第77条は、労働者が業務遂行中に事故に遭い負傷し、又は疾病にかかり、治ったときに身体に障害が残った場合には、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に一定の日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならないものとしています。

 しかし、業務上の事故についての補償は、大変重大な問題であり、また、迅速かつ公正な保護を必要とするものであるため、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という)法では原則として労働者を1人以上使用する事業主を強制的に加入させ、その補償を労使関係当事者ではなく第三者である政府が代わりに行うものとしています。

 ご質問のケースについて労災保険に加入していることを前提に考えてみますと、半身麻痺の状態は労災保険法上の障害等級の第1級(常時介護を要する状態)又は第2級(随時介護を要する状態)に該当すると思われますので、被災労働者に対し障害補償年金として1年につき平均賃金相当額の313日又は277日相当分が労災保険より支払われることになります。

 この場合、労災保険により代位的に補償がなされていますので、たとえ職場復帰のために教育訓練を受けている場合であっても、当該訓練が会社からの業務命令として行われ、労務の提供がなされているのではなく、社員の自己啓発によるものである場合には、会社は当該社員に対して賃金を支払う必要はありません。

 しかし、負傷する前の賃金について100%補償するという考え方から、1年間の賃金と障害補償年金の差額分(第1級の場合365日-313日=52日分、第2級の場合365日?277日=88日分)の賃金と従来どおりの賞与を支払うようにしてもよいでしょう。

 また、社員としても、より円滑に職場へ復帰できるように教育訓練を受けているわけですから、職場へ復帰した際には、当該自己啓発の内容にあった部門へ配置するなどの配慮をすることが望ましいでしょう。

カテゴリー:社会保険

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