社員が自己破産の申立てをしていたことを知っていて貸付を承認した役員の行為は特別背任罪に該当しますか?

 先日、当社は社内融資制度に基づいて、社員Aに350万円を貸し付けました。
 ところが、社員Aは貸付の3日後に自己破産の宣告を受けました。

 当社では、社員に金銭を貸付ける際には、役員の承認を必要としているのですが、貸付金に承認を出した役員はその社員が貸付金の申請をする前に自己破産を申立てていることを知っていたようです。

 この場合、当該役員の行為は特別背任にあたるのでしょうか?

上記「社員が自己破産の申立てをしていたことを知っていて貸付を承認した役員の行為は特別背任罪に該当しますか?」に対する回答

 当該役員は、金銭を貸し付けるのに適当ではない者に貸付金の承認を出すことによって、会社に不利益を与えた点だけを見ると、商法上の特別背任罪にあたるかに見えます。

 しかし、当該役員の社内的な役割と承認に至った経緯などの情状をよく勘案したうえ、貸付金を当該役員に返済させるなどの民事的な解決方法をとられることが妥当なものと考えられます。

 商法第486条は、「自己若ハ第三者ヲ利シ又ハ会社ヲ害センコトヲ図リテ其ノ任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害ヲ加エタルトキハ七年以下ノ懲役又ハ三百万円以下ノ罰金ニ処ス」と、会社の役員や上級使用人などが自己または第三者に利得を得させたり、または会社を害すことを目的にその任務に背く行為をし、結果として会社に財産上の損害を与えた場合には、特別背任罪として刑罰を課すこととしています。

 そして、商法はこの特別背任罪に該当する行為をしたときは、刑法第247条に定める背任罪より重い刑を科すこととしています。

 ご質問のケースは、自己破産を申立てている社員に貸付金の承認を出したことによって、結果として会社に損害を与えたことになりますので、上記の商法の定めに照らした場合、当該役員の行為は、特別背任罪にあたるかに見えます。

 しかし、損害額がそれほど大きくないこと、また、貸付金の返済がなされれば、背任にならないこと(社員が自己破産したからといって、損害が確定したわけではないこと)、さらに、貸付の承認に当たって会社に損害を与えるという特別の悪意があったとも思えないことなどを勘案しますと、特別背任罪として刑事告訴するところまで踏み込むのもいかがなものかと考えられます。

 そこで、まず、自己破産した従業員の身元保証人への債務の弁済の請求をするほか、当該役員に代位弁済を求めるなど、民事的に貸付金を回収するよう努めることが妥当かと思われます。

 いずれにしましても、ご質問のケースは会社は少なからず損害を被る可能性がありますので、少なくとも社内的には、当該役員が承認を出した理由やそれまでの経緯について調べたうえで、然るべき処分を行うことは必要と考えられます。

 その際、当該役員の会社でのこれまでの功績や現在の会社経営における役割なども考慮することが肝要です。

カテゴリー:懲戒・トラブル

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