身元保証人に対して損害賠償請求はどこまでできるのでしょうか?

 経理担当の従業員が、経理操作によって多額の公金を横領していたことが判明しましたので、本人を懲戒処分にするとともに、横領した公金を全額弁済するよう迫ったのですが、弁済能力がほとんどないことがわかりました。

 このような場合、身元保証人に全額賠償してもらうことができるのでしょうか。

上記「身元保証人に対して損害賠償請求はどこまでできるのでしょうか?」に対する回答

 損害の全額を身元保証人に賠償してもらうことはできません。

 身元保証人に対する損害賠償請求は、身元保証書に則って行われます。

 このとき、身元保証人から提出された身元保証書に記載された事項がその根拠となりますが、その際、「故意もしくは過失によって万一御社に金銭上はもちろん業務上、信用上損害を与えたときは、直ちに本人と連帯して損害額を賠償します」というような文言があれば、損害を全額賠償してもらうことができるかのように思えます。

 しかし、身元保証人になる者は、損害賠償額がどの位になるのかをあらかじめ考えてから身元保証書を提出しているわけではありませんし、日頃から当該従業員の行跡を知悉しているわけではありませんので、突然、損害賠償請求を突きつけられても困惑します。

 この点について、「身元保証ニ関スル法律」では、実際に、身元保証人の損害賠償額を決定するに際しては、

(1)従業員の監督に関する事業主の過失の有無、
(2)身元保証人が身元保証を引き受けるに至った事由、
(3)身元保証人が身元保証を引き受ける際に払った注意の程度、
(4)従業員の任務または身上の変化のほか、
 一切の事由を斟酌するとして、身元保証人の責任を軽減する一方、事業主の監督責任を重くみています。

 つまり、事業主が当該従業員の性格や職務への姿勢などを相当程度知悉しうる立場にあり、会社に損害を与えるような行為を未然に防止できたと考えられる場合には、未然に防止しきれずに雇用関係を継続した事業主の責任を重視し、身元保証人の賠償責任を軽減しているわけです。

 また、
(1)従業員に業務上不適任または不誠実な行為があり、これにより身元保証人に責任が生じる恐れがあるとき、
(2)従業員の任務や任地を変更したことにより、身元保証人の責任が加重になるとき、または従業員の監督が困難になったときには、事業主はその旨について身元保証人に通知することを義務づけています。

 そして、身元保証人は、こうした通知を受けた場合、身元保証を一方的に解除することができることとし、身元保証人を保護しています。

 事業主が、この通知義務を怠ったからといって、身元保証人に対して損害賠償をまったく請求できないわけではありませんが、通知を怠った場合には、当然のこととして損害賠償の額に影響することは否めません。

 いずれにしても、身元保証人に全額賠償責任を負わせることは難しいでしょう。

カテゴリー:懲戒・トラブル

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