本人宛に送られてきた健康診断結果を会社の担当者が開封することはプライバシーの侵害ですか

 会社負担で行った健康診断の結果が診療所から送られてきましたが、本人宛の「親展」となっていました。

 会社は健康診断の結果を保管しなければならないものと心得ていましたので、開封してコピーしましたが、「プライバシーの侵害になるのではないか」という声が従業員から出てきました。

 健康診断の結果の保管義務とプライバシーとの関係はどう考えればよいのでしょうか。

上記「本人宛に送られてきた健康診断結果を会社の担当者が開封することはプライバシーの侵害ですか」に対する回答

 企業は、健康診断を実施し、その結果である労働者の健康情報を掌握管理する義務がありますが、「親展」となっている本人宛の結果通知書を開封してしまうことには問題もありますので、本人に渡した後で必要事項のみを知らせてもらう等の方法で管理して下さい。

 また、担当者には守秘義務がありますので、その管理は慎重に行って下さい。

 労働安全衛生法(以下「法」という)は、「事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」(法第66条第1項)と定めるとともに実施後の措置について、「健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、医師の意見を聴かなければならない」(法第66条の2)、また「医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備その他の適切な措置を講じなければならない」(法第66条の3)と定めています。

 さらに、事業主は、「健康診断の結果に基づき、健康診断個人票(様式第5号)を作成して、これを5年間保存しなければならない」(法施行規則第51条)ものとされています。

 以上のように、労働者の健康情報を掌握管理することは、法令上事業者の義務とされていますので、ご質問にあるように、担当者が健康診断の結果を把握しようとしたこと自体は正当です。

 しかし、本人宛の通知書を勝手に開封することには問題があります。

 通常、「企業健診」ということで健康診断を医療機関に依頼すれば、本人とは別に会社宛にも結果は通知されています(通知方法は様々ですが、保健所の場合は、あらかじめ会社で作成した前述の健康診断個人票を渡して記入してもらうという方法が多いようです)。

 したがって、まず、医療機関に会社宛の結果通知を送付してもらいたい旨を依頼してみては如何でしょうか。

 しかし、それにもかかわらず、本人にしか通知書が送られないときは、本人宛の通知書から情報を得るしかありませんが、だからといって、「親展」となっている封書を勝手に開封してしまうのは好ましくありません。

 プライバシーの侵害になるからです。そこで、本人宛の通知書をまず本人に渡し、後に管理上必要な事項のみを本人の承諾を得て転記するか、コピー(複写)するようにするほかないでしょう。

 また、労働者の健康情報が会社宛に送られてきた場合と本人の承諾を得て転記(複写)した場合のいずれの場合にも、労働者の健康情報を扱う際には、その取扱いには十分な注意が必要となります。

 この点について、法第104条は「事業者が行う健康診断の事務に従事した者は、これに関して知り得た労働者の心身の欠陥その他の秘密を漏らしてはならない」と秘密保持義務を規定しており、違反者には「6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金」(法第119条)を課すこととしていますので留意して下さい。

 なお、欧米では労働者の健康情報は会社の担当者にも秘匿されるべきという考えをとっており、この考え方はILOの行動準則にも採用されるに至りました。

 この準則とわが国の現行の労働安全衛生法の規定は矛盾しています。

 ILOの行動準則は現在のところ批准されていませんが、もし将来この行動準則が批准されたときは、労働安全衛生法も改正されることになりますので、今後の動向に注意して下さい。

カテゴリー:安全衛生

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